ASEANプログラム
「『人間の安全保障』開発を目指した日アセアン双方向人材育成プログラムの構築」
京都大学人間の安全保障開発連携教育ユニット特定講師 飛奈 裕美
 

 
私は、京都大学人間の安全保障開発連携教育ユニットの特定講師をしております飛奈と申します。「人間の安全保障」開発を目指した日アセアン双方向人材育成プログラムの構築は、平成24年度に採択されたASEAN対象かつ大学院の教育プログラムを扱うプロジェクトです。本年度はもう既に3年目に入りましたので、今日の講演ではAUNと本学の間で実施している教育プログラムについて少し具体的なお話をさせていただきながら、その協働教育プログラムを開発するに当たって、また実施するに当たってどのような問題に直面してきたか、そしてそれをどのように克服してきたかということについて少しお話しさせていただいて、今後皆様が新しく事業を実施される際のご参考になればと思います。
 
まず、本プロジェクトの実施体制、概要なんですが、地球規模で発生する深刻かつ多様な課題の解決に貢献し、国境を越え地域と共鳴し、相乗効果を生み出す実行型国際人の育成というものを目的としております。そのために、教育プログラムとしては真ん中の「学修」、この修士課程の部分がメーンなんですけれども、それに先立って学部生を対象としたサマースクールも実施することによって、より一貫した体系だった教育プログラムを提供することを目指しています。
 
実施体制としましては、左側に「AUN事務局」「AUN加盟大学」「(10カ国、30大学)」とありまして、右側に京都大学の人間の安全保障ユニットがありますが、このAUN事務局と京都大学の人間の安全保障ユニットと、AUNの加盟大学のうちダブルディグリーを実施する主要5大学が代表となって、KU‐AUN運営会議というものを構成しております。平成25年1月にキックオフ・ミーティングを開催して、このプロジェクトがスタートしまして、それ以降は毎年度運営会議を開催し、また毎年度国際シンポジウムを開催して、教育制度について、あるいは具体的なプログラムについて話し合う場を持つようにしております。
 
教育プログラムの流れにつきましては、まず初めに「体感」ということで、学部生を対象としたサマースクール、次に「学修」として修士課程で修士学生を対象に3つのプログラムを用意しております。2年課程ダブルディグリー、3年課程ダブルディグリー、そして共同指導型シングルディグリーの3つで、これは後から少し詳しく説明させていただきます。そのような教育プログラム、ダブルディグリー、シングルディグリーを通して創造性を持った「挑み・共鳴し・創造する国際人材」を育てようというのがこのプログラムの枠組みです。
 
学内の実施体制としましては、参加部局は一番左ですね、農学研究科、エネルギー科学研究科、医学研究科、アジア・アフリカ地域研究研究科、エネルギー理工学研究所、東南アジア研究所の6つで、それらの部局と右側にある参加・教育機関、国際交流推進機構等々との間の連絡・調整などを人間の安全保障開発連携教育ユニットが担っています。また、ユニットはAUN加盟大学、AUN事務局とも連絡体制を築いています。
 
それでは、具体的な教育プログラムの説明に入りたいと思います。まずは学部生を対象としたサマースクールです。目的は、学生に課題発見、理解から解決策を講じる能力を身に付けさせること、そして重要なことは、このサマースクールを通して修士課程に入ったときにダブルディグリーに参加したいという動機づけを行うことです。このサマースクールというのは単位を取得することができまして、日本人の派遣に関しましては卒業単位に組み込める京都大学の2単位相当のプログラム、――これは受入と派遣がちょっと逆になっているんですけれども、派遣が卒業単位に参入できる国際交流科目として2単位が認定されます。留学生の受入につきましては、京都大学の2単位相当のプログラムとして修了証を発行しておりまして、それを認定するかどうかは学生の所属大学にゆだねるという形をとっております。派遣実績としましては、平成24年度に合計30名、平成25年度に15名を派遣しました。今年度も8月中旬から15名をラオスとベトナムに派遣する予定になっております。受入につきましては平成25年度にカセサート大学から合計24名、AUN加盟大学、これは平成26年1月にウインタースクールを実施したんですが、応募者320名程度の中から選抜された23名が日本に来て、スクールに参加しました。
 
それでは、本事業のメーンの部分であるダブルディグリープログラムについて説明したいと思います。ダブルディグリープログラムを実施するに当たって、必要な手続きというのを簡単にまとめてみました。まず、京都大学では初めてのダブルディグリーということで、学内の教育制度委員会でこのダブルディグリーの実施を承認してもらいました。それで2つダブルディグリーがありますので、2年プラス2年を3年で修了するプログラム、それから2年プラス1年を2年で修了するプログラム、それぞれを平成25年4月と7月に承認をいただきました。それに続いて、ダブルディグリーを実施する大学間のダブルディグリー実施協定書というのを締結する必要があります。これはMOUと呼ばれるものです。今までにガジャマダ大学、バンドン工科大学、チュラロンコン大学、マラヤ大学、カセサート大学と大学間の協定書を締結しておりまして、今年度中にシンガポール国立大学とも締結する予定となっております。それに続きまして、部局間のダブルディグリー実施補助協定書、プログラムディスクリプションというものを調印します。平成26年7月までに、農学研究科はガジャマダ大学とカセサート大学、エネルギー科学研究科はバンドン工科大学とマラヤ大学、医学研究科の社会健康医学系専攻はチュラロンコンとマラヤ大学と、それぞれプログラムディスクリプションを締結しています。この補助協定書の調印というのは今後さらに増える予定で、現在も交渉を進めています。
 
では次に、3年課程のダブルディグリーについて説明したいと思います。これは本学の2年課程と相手側大学の2年課程を3年で修了するというもので、現在は「食糧と水」「環境とエネルギー」の2分野で実施しています。部局としては農学研究科とエネルギー科学研究科になります。平成25年度に開始をしまして、農学研究科はUGM、ガジャマダ大学及びカセサート大学と、エネルギー科学研究科はITB及びUM、マラヤ大学と開始をしています。実績について、派遣につきましては昨年度は応募者がいなかったためにゼロなんですが、今年度につきましては農学からUGMに2名、エネルギー科学研究科からマラヤに1名の合計3名の派遣が決定しています。受入につきましては、平成25年度にUGMから農学研究科に2名、この2名はこの9月末から日本に来て1年間の長期留学を開始します。平成26年度については募集中ですが、UGMから数名とカセサート大学からは3名ほど農学研究科に対して参加の希望が来ております。
 
履修スケジュール例をここに載せたんですが、やはりアカデミックカレンダーの相違というものが問題になりまして、事業の当初の計画とは異なるアカデミックカレンダー、履修スケジュールを作成しました。京都大学の学生につきましては、4月に入学をして1年目の終わりの3月の春休みに相手側大学に短期留学をします。2年目の初めにまた京都大学に戻ってきて修士研究を行って、後期10月から1年間相手側大学で研究を行って修士論文を完成させます。これが1つ目の修士論文になります。3年目の後期に日本に戻ってきてから、この2年目の初めに行っていた研究の続きを実施して2本目の修士論文を完成させて、2本の学位申請論文がそろった段階で両方の大学で審査を行い、両方通りましたらダブルディグリーを取得というふうにしております。AUN加盟大学の学生につきましては、大学によって学期の始まる時期が違うんですが、8月9月に入学をして、日本でいう1年目の春休みの時期に短期留学をし、また3月の終わりに所属大学に戻ってコースワークを行います。それで2年目の後期、10月から1年間京都大学に来まして修士論文の1本目を完成させます。3年目の初め、向こうでは8月9月に所属大学に戻って1年間研究を行い、2本目の学位修士論文を完成させて、2本そろったところで両方の大学でそれぞれ審査を行い、両方が通ったところでダブルディグリーの取得ということになります。
 
2年課程のダブルディグリーについてですが、こちらは2年プラス1年を2年で修了するということで、現在は「パブリックヘルス」の1分野で実施をしています。本年度に開始したばかりで、本学の医学研究科とチュラロンコン大学、マラヤ大学と実施をしております。今年度の派遣は、本学からの派遣はマラヤ大学へ1名、受入はチュラロンコン大学から1名、マラヤ大学から2名を予定しております。派遣の1名については今年の9月からマラヤ大学に1年間留学することが決まっております。
 
履修スケジュールについてですが、こちらもアカデミックカレンダーの相違がありますので、どこで長期留学を挟むかということで協議を行った結果、京都大学の学生については4月に入学して半年後、1年目の後期から相手側大学に1年間留学して1本目の論文、2年目の後期に戻ってきて本学で2本目の論文を完成させます。2本そろったところでそれぞれ審査をしてダブルディグリーの取得となります。相手側大学の学生につきましては、8月9月に入学したら初めの1年間は所属大学で修士論文を完成させて、2年目に本学に来て2本目の論文を完成させて、2本そろったところでそれぞれ審査をしてダブルディグリーの取得となります。
 
3つ目の修士学生対象のプログラムですが、2年課程共同指導型シングルディグリープログラムというものを実施しています。これはダブルディグリーを実施する5大学を除く25大学に所属する修士の学生を対象としています。概要としましては、所属大学と京都大学の指導教員による共同指導のもとに研究を実施し、所属大学に対して学位論文を提出するというプログラムになります。受入期間は原則6カ月なんですけれども、これは本学と相手側の指導教員の協議によって短縮することもできますし、延長することもできます。学位の審査につきましては、双方の指導教員が合意した場合には本学の指導教員が学位審査委員になることもできる、これはラーニングアグリーメントに事前に明記しておく必要があります。これは、いつ京都に来て何カ月間どのような内容の研究を行うかというものを、あらかじめ双方の指導教員が合意してラーニングアグリーメントに調印しておくという制度にしております。学生募集については年4回、3カ月に1回AUN事務局を通して行っていて、今年度の第1期、この8月から来るんですが、ベトナムから3名、タイから1名がもう既に受入を決定しております。現在は7月31日締切の第2回の募集を行っているところです。
 
このような、今まで説明したようなプログラムを実施するに当たって、やはり重要なのが質の保証ということになるんですが、まず1つ目に英語の開講科目とファカルティ・ディベロップメントということで、本学では本事業の前にも既に英語によって開講される講義群というものがありました。それにプラスして、本事業で新たに実施する共通科目というものを開発いたしまして、それぞれを全学的に実施されているシラバスの作成、単位認定、成績管理等々のプロセスに従って実施するという形をとっております。本事業では集中講義形式の共通科目2科目を開発しました。ちょっと講義名を書いてなくて申し訳ないんですが、「人間の安全保障開発特論」という科目と「東南アジア地域論」という科目の2科目で、両方ともAUN-ACTSに今年4月に日本の大学としては初めて登録をしました。これによって単位の相互認定や成績管理を可能とする取り組みを開始しました。それからFD活動としましては、若手教員の派遣・受入を行うことでコラボレーション講義を実施しようというのを、まずサマースクールで既に実施をしております。共通科目につきましても、今年9月に2科目の共通科目を実施しますが、その際に東南アジアから来ている教員にも参加してもらってコラボレーション講義をするということにしています。
 
学生の選抜基準ですが、学部の成績GPA2.30以上、英語力試験の成績TOEFL iBT 80またはIELTS6.0以上、それから研究テーマという基準を設定していまして、承認手続きとしては派遣部局教授会、人間の安全保障開発連携教育ユニット運営協議会、受入部局の教授会、KU-AUN運営会議の4つの段階を経て承認されるということになっております。
 
単位互換制度についてですが、「京都大学の全学的方針に従った単位の実質化をクリアし、単位互換可能な講義の質と量を保証する体制を構築」とありますが、具体的には京都大学では既にKUCTSという基準が示されておりまして、それとASEANの各大学の1単位当たり学習時間等々を比較する資料をつくりました。
 
これは1単位当たり学習時間の基準、それから各大学において互換可能な単位の数の比較表、それで各大学における修了要件の比較表、そして各大学が提供する科目の内容を収集してそれを突き合わせて、単位互換が可能な講義名と取得可能単位数をリスト化をして、このような資料を作成しました。それから、単位互換に先立って必ずラーニングアグリーメントを調印するということを決めております。京大、ASEANの大学でそれぞれ履修する科目と単位数、単位互換する科目と単位数について、学生1人1人に対して事前に双方の大学の指導教員が協議して調印するという制度を構築しました。
 
これが1単位当たりの学習時間の比較表で、これをダブルディグリーを実施するすべての大学についてつくりました。これが修了要件の比較表になります。ただ、ここまで資料をつくっても個別のケースで問題が起こることがありまして、例えば科目Aを履修して単位を取得しておかないと科目Bを履修登録することができないとか、本学の農学研究科の例でいえば、2年間で合計18単位の必修科目を取得しなければならないけれども、留学生が来るのは1年間なので半分の9単位しか取得できないというような、そういう問題もあります。ですので、授業の履修の要件については個別のラーニングアグリーメント作成の時点で対応することにしておりまして、また必修科目の単位数については部局の教務で対応してもらい、留学生については半分でもOKというような形をとったり等々、このプログラムで直面する問題に対応して新しい制度をつくってきております。
 
これがラーニングアグリーメントの事例で、それぞれこれは1年目、2年目、3年目に、左側が相手側大学で取る科目名と単位数、右側が京都大学で取る科目名と単位数で、1年目に合計何単位、2年目に合計何単位、3年目に合計何単位というような形で、最後に指導教員の、ここは1人分しかないですが2人、双方の大学の指導教員がサインをするという形になっています。
 
事業評価体制ですが、まずは全学的な自己点検・評価というのを行っています。外部評価ですが、今年は中間年度、3年度目ということで、外国人を含む外部評価委員会を組成し、その評価を受けるという予定をしております。現在、外部評価委員候補者への依頼を行っている最中です。その自己評価、外部評価が両方とも終わりましたら報告書を作成し、来年度以降の取組の実施に反映させることにしております。
 
それから、教育プログラムのそのもので直面した問題以外の課題について、少しお話しさせていただきたいと思います。
 
1つ目は、京都大学とAUN加盟大学の学内制度の違いという問題がありました。本学ではそれぞれの大学院が学部を持っている、この縦の関係になっていて、それぞれの大学院から代表する先生が出てきて「人間の安全保障ユニット」を形成しています。ところが、相手側の大学では――東南アジアの大学では多くがそうなんですけれども、大学院という独立した組織があって、そこに対してそれぞれの学部が修士プログラムを提供するという形になっています。それぞれの学部が全学とつながっていて、また大学院も全学と直接つながっているということで、本事業に関する協議を行う際にだれにコンタクトをしたらいいのか、だれが代表をするのかという、その相手方のコンタクトパーソンを把握するということにまず時間がかかります。それから協定書の調印者というのも、本学では全学にかかわることについては総長のサイン、それぞれの部局にかかわることは部局長のサインというふうに明確なんですけれども、相手側の大学はそれぞれの学部がどのレベルの協定書であれば調印する権利を持っているのか、大学院はどの協定書にサインができるのかというようなことを、それぞれ把握をしないと話が進まないというような問題がありました。また、本学と違ってそれぞれ学部と大学院の形が違いますので、相手側の大学で学部間、学部・大学院間の情報共有というのが十分なされておらず、協議が円滑に進まないというような問題もありました。したがって、MOU及びプログラムディスクリプションを調印するのに非常に時間がかかってしまいました。
 
2番目の問題は、学生の登録時期の問題で、本学は10月入学制度を導入しておりますので、それを活用することによってASEANの学生に10月入学で学籍を発生させることにしておりますが、10月に学籍を発生させるためには9月上旬の会議で承認が必要ということで、相手側の大学が8月だったらぎりぎり間に合うかもしれないんですけれども、9月入学の場合手続きが遅れる可能性がありまして、そうしますと相手側大学での学生募集を入学前に行わなければならないという問題が出てきています。これは特に3年課程であれば3年間のうち2年間、本学に学籍があればいいんですけれども、2年間の場合には相手側大学に入学した瞬間に京都大学でも学籍を発生させなければなりませんので、この学生登録の時期と手続きの問題が今非常に克服すべき問題として出てきています。
 
最後に学生募集ですけれども、当初の目標よりダブルディグリー参加学生が派遣・受入ともに少ないという状況になっています。周知募集活動としましては、これまでにプログラムのホームページを開設したり、パンフレットを作成して配布したり、大学院の入試合格者に案内を送付したり、オリエンテーションの際に説明会を行ったり、また各研究科にポスターを掲示し、教員から直接学生に声をかけてもらうというようなことを日本側では行っています。相手側大学につきましては、相手側大学の先生方に直接学生に働きかけてもらうというのはもちろんなんですけれども、英文のパンフレットを配布したり、留学フェアが行われる場合には出向いて説明会を開催したりというような活動を行っています。ですが、やはり日本人学生も東南アジアの学生も英語力試験の基準を超えないという問題がありまして、これが人数が増えない1つの大きな要因となっております。それに対しての取り組みとしましては、英語の研修を受講することを義務付けて、長期留学までに一定程度の英語力の向上が見られれば参加を許可するというようなことを始めております。2点目の問題点ですけれども、特に日本人の学生については、就職活動に支障が出るのではないかということを懸念して、ダブルディグリーへの参加を躊躇するというケースが多々見られます。これについてはユニットの構成メンバーである先生方が、国内外の企業と連携を、具体的には学生がそれぞれ就職を希望する企業に直接出向いて説明をしたり、協力をお願いしたりというようなことを行っています。
 
このように課題はまだまだ多いんですけれども、本事業の意義としましては全学の国際化に貢献しているということが言えるかと思います。人間の安全保障プログラム、本学で初のダブルディグリープログラムでありまして、本事業の実施に際して学内の教育制度委員会でダブルディグリープログラムのガイドラインというものが作成されました。これに則って、現在、本事業以外にもダブルディグリープログラムを構築しようという試みがいくつかなされていると伺っています。さらに本学では、平成26年5月に新たな国際戦略「2×by 2020」、2020年までにすべての国際化指標を2倍に倍増させようという戦略なんですけれども、これの策定にも寄与しておりまして、具体的にはMOUの締結数であるとか派遣学生数、受入学生数、英語で提供する科目の数の増加等々に貢献してきております。
 
以上で話を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
 

    関連資料

    事例発表資料(PDF) 【1.46 MB】