AIMSプログラム
「アジアの共同経済発展と信頼関係の確立による平和構築に貢献する中核人財教育プログラム」
広島大学生物圏科学研究科准教授  小池 一彦
 

 
おはようございます。最初に、このような機会をお与えくださいました京都大学と、今回AIMSの代表ということで発表させていただきますけれども、AIMS幹事校の筑波大学に厚く御礼申し上げたいと思います。
 
ただいま過分なご紹介をいただきましたけれども、実は私は単位互換とか質保証という専門家では全くございませんで、専門は漁業の水産学の教員です。そういう大きなプログラムの中で、末端の教員が何を考え、どう苦労してきたかという、そういう苦労談とともに、よくわからないからこそフットワーク軽くやれてきたという自負もございます。そういう紹介をさせていただきたいと思います。小池と申します。よろしくお願いします。
 
とは申しましても、AIMS代表ということですので、まず前半部分でAIMSのオーバービューと、質保証にも重要な役割を果たしますレビューミーティング、この2つについてご説明申し上げた後、こちらも私は専門ではございませんけれども、AIMSで使うことになっていますCredit Transferのスキーム、UCTSについてご紹介したいと思います。後半部分は、広島大学がAIMSの枠組みの下で行ってございますAIMS-HUのプログラムと、さらにそれをスタートさせるに当たってどのような苦労があったのか、どのような問題があったのか、どういうふうに解決してきたのかという事例の紹介をさせていただきたいと思います。
 
まず、AIMSの概要でございますけれども、AIMSはASEAN International Mobility for Studentsということで、SEAMEO、東南アジア教育大臣機構の加盟国を枠組みとするASEANにおける政府主導の――先ほどJunaidi先生のほうからもご説明がありましたけれども、政府主導の学部生に限定した交換留学プログラムです。
 
2010年にマレーシア、インドネシア、タイの「M-I-T」という枠組みからスタートいたしまして、翌年にはこの3カ国で260名の学生、しかも交換する学問分野が指定されておりまして、この当時は5つのフィールドです。2012年にベトナムの10大学が参加し、さらに昨年、日本とブルネイとフィリピンとが加わった比較的新しい枠組みなのかなあと思います。今や7つの国と7つの学問分野で学生の交流を進めていますけれども、非常に鼻息が荒いというか、来年には10カ国、10の学問分野で学生交流を進めていこうというプログラムでございます。
 
特色ですけれども、undergraduate level、学部生のレベルで政府主導の多国間のプラットフォームであると。それで、相互利益の原則に基づく派遣数と受入数のバランス、例えば我々の大学が10人どこかの大学に送り込めば10人同じ数を受け入れるという、こういう原則があります。さらに、対象学問分野が指定されておりまして、最初「M-I-T-V」のころは5つ、ホスピタリティ&観光、農業、言語・文化、国際ビジネス、食料科学技術というものからスタートしましたけれども、昨年度から工学、経済が加わり、さらに3つぐらい学問分野が加わろうとしているということです。それで、非常にいろいろな機会に強調されるのが、地域の学生交流の促進というところでもあります。
 
このような機会に私が専門家でもないのにこのようなことを説明するのは非常に口幅ったいのですけれども、実は教員の中でも「なぜASEANなのだ」と、「欧米とならやるけども」という、まだそういう意識は非常に大きいんですが、なぜASEANの枠組みに日本が加わるのかということを私なりに、いろんな機会で説明するんです。これは日本ASEANセンターの資料で、ASEANというのは青色、日本は緑色、中国は突出していますけれど、2030年には現在の2.5倍の規模にGDPが拡大していく、日本とほぼ肩を並べるくらいに高い経済成長率と成長余力を誇ると言われております。
 
そういう中で、その貿易額も2030年には現在の約15倍に拡大していくと。それでASEANの輸出・輸入のこのパイもどんどん大きくなっていくわけですけれども、そこでの日本のプレゼンス、この青色のピースですけれども、相対的にこのピースは減っていくと。こういう魅力的な市場において日本のプレゼンスを高めるためにも、もう少し頑張らなければいけないということがあると思います。
 
そのためには、我々は学生の人財教育ということで頑張ろうという意識を持っているわけですけれども、これは野村総研のレポートのコピペですが、ASEANというのは各国独自の言語・文化・慣習を持つ複合地域であると。ほかの経済共同体、EUなんかと比べても非常に文化・慣習が多様なんだと。これを理解し、チャンスにし、特に互恵の考えですね、やってあげる、やってもらうだけじゃなくて、お互いにレシプロシティーのマインドを持った、そういう人材が日本のプレゼンスをこのASEANで高めていくためにも必要なんだというふうに野村総研が言っていますけれども、私もこういう人財を育てたいというふうに、このプログラムのもとで考えております。
 
このAIMSのプログラムの質保証というものに非常に大きな役割を果たしているのではないかなと思うのが、レビューミーティングという制度があります。これは年に2回――結構頻繁ですね、1回終わるとすぐにまた次のサーキュラーが回ってくるというような感じで、年に2回、その「multilateral platform」の下で、政策担当者、高等教育機関の代表者がミーティングを行います。こういうプラットフォームの中で、協定校との連携の非常にいい機会ですし、情報の共有、グッドプラクティスのシェア、さらに政策担当者もいますので政策立案の原案などもここで話し合われているようで、質保証という意味で非常にいい試みかなというふうに思っております。
 
ここからが単位互換なんですけれども、実は本学、広島大学の堀田というのがこの単位互換の専門家で、本来は堀田先生にやっていただくべきだったのかもしれませんけれども、このAIMSにおいては、先ほどJunaidi先生のご説明にもありましたとおり、文科省のホームページをそのまま持ってきますと、「単位互換及び認定をともなう交流」であり、「単位互換はUMAPのUCTSを推奨」というふうになっております。UMAPというのはアジア太平洋大学交流機構、35カ国ぐらいが参加している非常に大きな学生・教員の交流の機構ですけれども、そこで使われるCredit TransferのスキームということでUCTSという名前になっているということです。こういうものを推奨するということになっています。
 
それで、ここら辺が専門家ではない私にはこんがらがるところなんですけれども、このUCTSにも古いUCTSと新しいUCTSというものがどうもあるみたいで、古いUCTSというのはECTSをベースにつくられたものらしいです。ここで言っているUCTSというのは、2014年に提案された新たな互換スキームのUCTSです。これは堀田が文科省の委託研究を受けて、アジア13カ国でその1単位に相当する授業時間とstudents’ workloadの関係を調べたという調査経緯がございます。それに基づいて、堀田がAsian Academic Creditsという制度を提案したわけです。
 
簡単に言ってしまえば、このAACsに基づくUCTSは、1単位が38~48時間のstudent workloadであり、そこに13~16時間の授業時間が含まれると。それで、アジアの調査した非常に多くが、日本、中国、韓国も含めて全部その1単位というのはこの間に入っているということで、例えばある大学、ある国が、1単位がこの範囲内に入っていれば、その1単位は1単位として互換していいんじゃないかと。タイも日本もそうですね、ですから非常にシンプルです。私はこれは難しいことはよくわからないんですが、運用する側にとっては非常にシンプルでわかりやすい考え方です。ただ、例えば「ここに非常に大きな幅がありますけど、これを許容できるのかどうか」とか、いろいろ問題はあるみたいですけれども、運用側としては1単位はもう1単位なんだと、等価で互換するんだという考え方は非常に運用しやすいものではあります。
 
ここから広島大学の我々がやっておりますプログラム、「アジアの共同経済発展と信頼関係の確立による平和構築に貢献する中核人財教育プログラム」と長い名前ですけれども、考え方としては、お互いに信頼関係をつくり、それが経済成長につながっていくと。それで経済成長が共同的な発展につながり、共同的な発展がさらなる信頼関係の醸成につながっていくと。こういうトライアングルを回すことによって地域・アジアの平和というものに貢献する、それに貢献できる人財を教育しようというのが、このプログラムの大きな目的でございます。
 
それで、育成する人財のイメージですけれども、「『平和』の重要性を理解し」、これは広島大学では1年生に学問として平和科目というものを必修化しております。「言語・文化の多様性を理解し」、「グローバルコンピテンシー」これを非常に重要視しておりますけれども、日本人の学生たちは発信力、交渉力、リーダーシップというのがわかっていてもなかなか発揮できない学生が多いという中で、それを発揮できるようになろうという、そういうトレーニングも備えます。それでさらに、ASEAN、日本のニーズに対応した4つの専門分野を我々はやっております。
 
ここですと、食品科学と農学、工学、経済、教育と文学、という4つの分野を提供しております。それで、こういう分野を通じてアジアの持続的発展に貢献できる中核人財、こういうものをつくろうというプログラムです。
 
概要ですけれども、留学前には当然大量の英語をやってもらいますし、行く先の国の言語、文化、そういうものを事前学習する機会を与えます。さらにこれは1つの大きな目玉になっていまして、向こうに行って授業をとる以外に、自分でテーマを見つけてそれについてリサーチする、そういうテーマを立案します。それで留学中に、この女の子は東南アジアに行き、この男の子は日本に来るわけなんですけれども、この東南アジアから来た子には平和科目というものも履修してもらいます。それでこういう4つの分野で交流を行います。さらに自分がリサーチしたテーマについて、学生のラウンドテーブルのところでディベート、ディスカッションをしてもらうことによって、このグローバル・コンピテンシーを育成するということを特徴としております。
 
また、国際キャリア教育というのも重要視しておりまして、例えば日本の学生は、一例を挙げますと、タイに行ってJICA、国際協力機構において1週間のインターンシップを行います。東南アジアから来た学生が日本の企業でインターンシップというのはなかなか難しいんですけれども、いろんな企業を見学するというプログラムも用意しております。それで実際に母国に帰った後は、東南アジアに強いアフィリエーションを持つような日本企業での中長期インターンシップ、こういう機会を提供するプログラムになっております。
 
コンピテンシーの評価ですけれども、これは基本的に自己申告になっておりまして、留学に行く前、行っている最中、行った後、いろんな7項目について自己評価で、指導教員がそれを客観的に評価するという、こういうシートをつくっております。もう1つ、この国際キャリア教育において、もう既に広島大学にはチュラロンコンの学生が来ておりますけれども、彼らが広島ならではの自動車産業、マツダを見学に行ったり、メディアとしてNHKに見学しに行きます。こういうのは見学だけではありませんで、行く前に例えば日本の自動車産業やメディアについて十分自分で調べてもらいまして、帰ってきたらグループディスカッションやディベート、そういうふうなプログラムになっております。
 
ここから私の苦労談のような話になるんですけれども、私は生物圏科学研究科――農学部みたいなものですけれども、そこでカセサート大学農学部とのstudent exchangeというものをやろうとしています。昨年11月にこのプログラムに採択されまして、たくさんバンコクに行きました。とにかくメールではなかなか埒が明かないということがわかりまして、11月から2月の4カ月の間に5回行きました。そして、当然最初のほうは我々ペーペー同士で話し合いまして、その後、理事、学部執行部レベルという、ここでもセレモニーからのハンコを押すだけというわけじゃなくて、もう本当に朝から晩まで膝を突き合わせてディスカッションという、こういう機会でした。
 
それで、いろいろな問題がありますけれども、非常にカセサート大学が人気があって、日本の学生を受け入れるのはいいんですけれども、その同じ数を日本に派遣するというのがなかなか難しい。あと学年暦の相違ですね。タイは今年度から1セメスターが8月から12月になりましたので、これは日本人にとってはいいですね。夏休みをちょっと犠牲にすればお正月前には帰ってこられます。ところが、タイの学生が日本に来るときですが、向こうの2セメが1月6日に始まってしまうので、この日本の2月までの2セメには最初から最後まではいられないわけです。あともう1つ、科目ごとの単位互換という問題に遭遇しました。それで1つ1つの科目を互換していくのですが、内容に80%以上の相同を求められました。これは非常に厳格に求められました。ということで、実は我々は最初、せっかく日本に来るんだから日本のいろいろなことを教えるという授業を用意してたんですが、そうではなくて、向こうの授業と100%同じ、そういう授業を新たにつくることになりました。
 
あと1つは、3単位という問題です。向こうの授業はほとんど3単位です。ですから日本で2単位取っても向こうの3単位の授業に読みかえられない、こういう問題が出てきました。この3単位の問題と学年暦の問題というのは非常に解決に苦労したんですけれども、結局3単位は、先ほどのUCTSの概念でいきますと、こういうワークロードとアカデミックアワーに入りますので、とにかく3単位の授業をつくりました。それで先生たちに無理を言って、ちょっと夏休みを犠牲にして9月から12月の末まで授業をやります。これで15コマできます。それでは2単位にしかなりませんので1単位分足りないんですね。それで1単位分はその不足の時間分を課す、実験や実習、調査旅行、さらに宿題なんかも含めて、こういうもので3単位の科目をつくるに至りました。
 
こういういろんな苦労を経て、3月には関係の大学を広島大学に招いてキックオフ・シンポジウムを行いました。これは宮島に行った写真ですね。こういうものも非常にTrust buildingで重要かなと私は思っております。
 
来週の土曜日からうちの学生がタイに赴きますけれども、まずEnglish Communicationのクラスですとか、あと留学生を雇ってタイ言語を今頑張って勉強しております。あとは向こうの農学に関する専門書を読み解くということを4月からずっとやっております。
 
すみません、ちょっと時間がオーバーしました。ありがとうございました。(拍手)

    関連資料

    事例発表資料(PDF) 【3.94 MB】